海東の山路、かなたこなた巡りましつつ、明《あきら》けく治《おさま》る御世の、今年はも十あまり三とせ、瑞枝《みずえ》さす若葉の夏に、ももしきの大宮人の、人さはに御供《みとも》つかへて、東《ひんがし》の京《みやこ》をたたし、なまよみの甲斐《かい》の国、山梨《やまなし》の県《あがた》を過ぎて、信濃路《しなのじ》に巡りいでまし、諏訪《すわ》のうみを見渡したまひ、松本の深志《ふかし》の里に、大御輿《おおみこし》めぐらしたまひ、真木《まき》立つ木曾のみ山路、岩が根のこごしき道を、かしこくも越えいでますは、古《いにしえ》にたぐひもあらじ。
谷川の川辺の巌《いわお》、かむさぶる木々の叢立《むらだち》、めづらしと見したまはむ、奇《くす》しともめでたまはむ。
我里は木曾の谷の外《と》、名に負ふ神坂《みさか》の村の、嶮《さか》しき里にはあれど、見霽《みはら》しの宜《よろ》しき里、美濃の山|近江《おうみ》の山、はろばろに見えくる里、恵那《えな》の山近く聳《そび》えて、胆吹山《いぶきやま》髣髴《ほのか》にも見ゆ。
ももしきの美濃に往《い》かさば、山をおり国|低《ひ》きかれば、かくばかり遠くは見えじ。しか
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