われて来た手力男《たぢからお》の命《みこと》にたとえたいような人もあった。その人の徳望と威力とは天下衆人に卓絶するものとも言われた。けれども、磐屋の前の暗さに変わりはない。力だけでは磐戸も開かれなかったのだ。
こんな想像は、飛騨の旅の思い出と共に帰って来る半蔵の夢でしかないが、それほど彼の心はまだ暗かった。幾多の欠陥の社会に伏在すればこそ、天賦人権の新説も頭を持ち上げ、ヨーロッパ人の中に生まれた自由の理も喧伝《けんでん》せられ、民約論のたぐいまで紹介せられて、福沢諭吉《ふくざわゆきち》、板垣退助《いたがきたいすけ》、植木|枝盛《えもり》、馬場|辰猪《たつい》、中江|篤介《とくすけ》らの人たちが思い思いに、あるいは文明の急務を説き、あるいは民権の思想を鼓吹《こすい》し、あるいは国会開設の必要を唱うるに至った。真知なしには権利の説の是非も定めがたく、海の東西にある諸理想の区別をも見きわめがたい。ただただわけもなしに付和雷同する人たちの声は啓蒙《けいもう》の時にはまぬがれがたいことかもしれないが、それが郷里の山林事件にまで響いて来るので、半蔵なぞはハラハラした。物を教える人がめっきり多くな
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