地以来のことを記《しる》したあたりはことに省いてあって、そのかわり原案の草稿にない文句が半蔵の目についた。
彼は宗太に言った。
「ホ、ここにも民有の権を継続してとあるナ。この書類はしばらくおれが借りて置く。よく読んで見る。」
ひとりになってからの半蔵は繰り返しその請願書に目を通した。木曾のような辺鄙《へんぴ》な山の中に住んで、万事がおくれがちな人たちの中にも、いつのまにか世の新しい風潮を受け入れて、こんな山林事件にまで不十分ながらも民有の権利を持ち出すようになったことを想《おも》って見た。これが官尊民卑の旧習に気づいた上のことであるなら、とにもかくにも進歩と言わねばならなかった。最初彼が王滝の遠山五平らを語らい合わせて出発した当時の山林事件は、今のうちに官民協力して前途百年の方針を打ち建てて置きたいという趣意にもとづいた。というのは、従来木曾谷山地の処置については享保年度からの名古屋一藩かぎりの御制度であるから、郡県政治の時代となっては本県の管下も他郷一般の処置を下し置かれたい、それには享保以前の古《いにしえ》に復したいと願ったからであった。言って見れば、木曾谷の沿革には、およそ三
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