た恩顧は忘れられないと言って、和尚は和尚だけの回向《えこう》をささげに禅家風な茶色の袈裟《けさ》がけなどで来ているところは、いかにもその人らしい。当日の主人側には、長いこと隣家旧本陣に働いた清助が今は造り酒屋の番頭として、羽織袴《はおりはかま》の改まった顔つきで、二代目を助けながらあちこちの客を取り持っているのも人々の目をひいた。やがて質素な式がはじまり、神酒《みき》、白米、野菜などが型のように故人の霊前に供えられると、禰宜の鳴らす柏手《かしわで》の音は何がなしに半蔵の心をそそった。そこに読まれる千里の祭詞に耳を傾けるうちに、半生を通じてのよい道づれを失った思いが先に立って、その衆人の集まっている中で彼は周囲《あたり》かまわず男泣きに泣いた。
五
休息。休息。帰国後の半蔵が願いは何よりもまずその休息よりほかになかった。飛騨生活の形見として残った烏帽子《えぼし》[#「烏帽子」は底本では「鳥帽子」]を片づけたり無紋で袖の括《くく》ってある直衣《のうし》なぞを手に取って打ちかえしながめたりするお民と一緒になって見ると、長く別れていたあとの尽きない寝物語はよけいに彼のからだ
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