別の山嶽《さんがく》の趣がある。遠く美濃の平野の方へ落ちている大きな傾斜、北側に山の懐《ふところ》をひろげて見せているような高く深い谷、山腹にあたって俗に「鍋《なべ》づる」の名称のある半円状を描いた地形、蕨平《わらびだいら》、霧ヶ原の高原などから、裾野《すその》つづきに重なり合った幾つかの丘の層まで、遠過ぎもせず近過ぎもしない位置からこんなにおもしろくながめられる山麓《さんろく》は、ちょっと他の里にないものであった。木立ちのしげり栄えて、しかも物すごくないという形容は、そのままこの山にもあてはまる。山が曇れば里は晴れ、山が晴れれば里は降るような変化の多い夏のころともちがって、物象の明らかな季節もやって来ている。
「お父《とっ》さん。」
と声をかけて森夫と和助がそこへ飛んで来た。まだ二人《ふたり》とも父のそばへ寄るのは飛騨臭いという顔つきだ。半蔵は子供らの頭をなでながら、
「御覧、恵那山はよい山だねえ。」
と言って見せた。どうしてこの子供らは久しぶりに旅から帰って来た父の心なぞを知りようもない。学校通いの余暇には、兄は山歩きに、木登りに。弟はまた弟で、榎《えのき》の実の落ちた裏の竹藪
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