の眼前に山と積まれた。梅酢《うめず》と唐辛子《とうがらし》とを入れて漬ける四斗樽《しとだる》もそこへ持ち運ばれた。色も紅《あか》く新鮮な芋殻を樽のなかに並べて塩を振る手つきなぞは、お民も慣れたものだ。
 母屋の周囲を一回りして来て、おのれの書斎とも寝部屋ともする店座敷の方へ引き返して行こうとした時、半蔵は妻に言った。
「お民、お前ばかりそう働かしちゃ置かない。」
 そう言う彼は、子弟の教育に余生を送ろうとして、この古里に帰って来たことを妻に告げた。彼もいささか感ずるところがあってその決心に至ったのであった。

       四

 飛騨《ひだ》の四年あまりは、半蔵にとって生涯《しょうがい》の旅の中の最も高い峠というべき時であった。在職二年にして彼は飛騨の人たちと共に西南戦争に際会した。遠く戦地から離れた山の上にありながらも、迫り来る戦時の空気と地方の動揺とをも経験した。王政復古以来、「この維新の成就するまでは」とは、心あるものが皆言い合って来たことで、彼のような旧庄屋|風情《ふぜい》でもそのために一切を忍びつづけたようなものである。多くの街道仲間の不平を排しても、本陣を捨て、問屋を捨て
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