立ち話をかえた。過ぐる年月の間、彼女の絶え間なき心づかいは、いかにして夫から預かったこの旧家を安らかに持ちこたえて行こうかということであった。それには一切を手造りにして、茶も自分の家で造り、蚕も自分で飼い、糸も自分で染め、髪につける油まで庭の椿《つばき》の実から自分で絞って、塩と砂糖と藍《あい》よりほかになるべく物を買わない方針を取って来たという。森夫や和助のはく草履《ぞうり》すら、今は下男の夜なべ仕事に家で手造りにしているともいう。これはすでに妻籠《つまご》の旧本陣でも始めている自給自足のやり方で、彼女はその生家《さと》で見て来たことを馬籠の家に応用したのであった。
間もなくお民は古い味噌納屋《みそなや》の方へ夫を連れて行って見せた。その納屋はおまんが住む隠居所のすぐ下に当たる。半蔵から言えば、先々代半六をはじめ、先代吉左衛門が余生を送った裏二階の下でもある。冬季のために野菜を貯《たくわ》えようとする山家らしい営みの光景がそこに開けた。若いよめのお槇《まき》は母屋《もや》から、下女のお徳は井戸ばたから、下男佐吉は木小屋の方から集まって来て、洗いたての芋殻《いもがら》(ずいき)が半蔵
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