駅路一切の奔走を共にしたあの伊之助が草葉の陰にあるとは、どうしても彼にはまことのように思われもしなかった。
馬籠の仲町近くまで帰ると、彼はもう幾人かの成人した旧《ふる》い教え子にあった。
「お師匠さま。」
と呼んでいち早く彼の姿を見つけながら走り寄る梅屋の三男|益穂《ますほ》があり、伏見屋の三男三郎がある。その辺は仮の戸長役場にも近く、筑摩《ちくま》県と長野県とに分かれた信濃の国の管轄区域を合併して郡県の名までが彼の留守中に改まった。これは馬籠というところかの顔つきで、背中に荷物をつけながら坂になった町を登って来る供の六三郎は、どうかすると彼におくれた。彼は途中で六三郎の追いつくのを待ちうけて、戸長役場の前を往還側に建てられてある標柱のところへ行って一緒に立った。
その高さ九尺ばかり。表面には改正になった郡県の名が筆太に記されてあり、側面にやや小さな文字で東西への里程を旅人に教えているのも、その柱だ。
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長野県西筑摩郡|神坂《みさか》村
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馬籠の旧《ふる》い宿場も建て直ろうとする最中の時である。二十五人、二十五匹の宿人足と御伝馬
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