頼まれて迎えにまいった近所のものでございます、空身《からみ》ですから荷物を持って行きましょう、とその若者が言ってくれる、お民の方ではそれを断わって、主人も待って心配していようから、これからすぐ引き返して、「無事に来よるが」と伝えてください、と答えたとのことである。それからお民は八里ほど進んで、いかにも山深い宮峠のふもとの位置に、東北には木曾の御嶽山の頂《いただき》も遠く望まれるようなところに、うわさにのみ聞く水無川の河原を見つけたという。お民はそう長くも夫のそばにいなかったが、ちょうど飛騨の宮祭りのころであったことが一層彼女の旅を忘れがたいものにしているとか。
「なあ、お富。」とまた伊之助が枕の上で言い出した。「四年は長過ぎたなあ。」
「半蔵さんの飛騨がですか。」
「そうさ。」
「わたしに言わせると、はじめからあのお民さんを連れて行かなかったのは、うそでしたよ。」
「うん、それもあるナ。まあいい加減に切り揚げて、早く馬籠へお帰りなさるがいい。あの半蔵さんが四十代で隠居して、青山の家を子に譲って、それから水無神社の宮司をこころざして行ったと思ってごらん。忘れもしない――あの人がおれのとこ
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