間のついた部屋から、毎日宮司のつとめに通《かよ》っているらしい。
「それにしても、この歌のさびしさはどうだ。」
と伊之助はひとり言って見た。
春、夏、秋、冬、恋、雑というふうに分けてある半蔵の歌稿を読んで行くうちに、ことに伊之助が心をひかれたのはその恋歌であった。もっとも、それは飛騨でできたものではないらしいが。
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もろともに夢もむすばぬうき世にはふるもくるしき世にこそありけれ
おろかにもおもふ君かなもろともにむすべる夢の世とはしらずて
月をだにもらさぬ雲のおほほしく独りかもあらむ長きこの夜を
今ぞ知る世はうきものとおもひつつあひみぬなかの長き月日を
相おもふこころのかよふ道もがなかたみにふかきほどもしるべく
年月をあひ見ぬはしに中たえておもひながらに遠ざかりぬる
霞《かすみ》たつ春の日数をしのぶれば花さへ色にいでにけるかな
もろともにかざしてましを梅の花うつろふまでにあはぬ君かも
年月の塵《ちり》もつもりぬもろともに夢むすばむとまけし枕《まくら》に
うたたねの夢のあふせをあらたまの年月ながくこひわたるかな
年月のたえて久しき恋路《こいじ》にはわすれ草のみ
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