のすこし黄ばんだ中に、どこか楮《かぞ》の青みを見つけるさえ彼にはうれしかった。
[#ここから2字下げ]
ふるさとの世にある人もなき人も夜な夜な夢に見ゆる頃《ころ》かな
秋きぬと虫ぞなくなるふるさとの庭の真萩《まはぎ》も今や咲くらむ
おもひやれ旅のやどりの独《ひと》り寝の朝けの袖《そで》の露のふかさを
あはれとや月もとふらむ草枕《くさまくら》さびしき秋の袖の上の露
独りある旅寝の床になくむしのねさへあはれをそへてけるかな
長き夜をひとりあらむと草枕かけてぞわぶる秋はきにけり
ありし世をかけて思へば夢なれや四十《よそじ》の秋も長くしもあらず
[#ここで字下げ終わり]
秋の歌。これは飛騨高山中教地にて詠《よ》めるとして、半蔵から寄せた歌稿の中にある。伊之助はこれを読みさして、水無川《みなしがわ》ともいい水無瀬川《みなせがわ》ともいう河原の方に思いをはせ、宮峠のふもとから位山《くらいやま》を望む位置にあるという山里の深さにも思いをはせた。半蔵は水無神社から一町ほど隔てたところにある民家の別宅を借りうけ、食事や洗濯《せんたく》の世話などしてくれる家族の隣りに住み、池を前に、違い棚《だな》、床の
前へ
次へ
全489ページ中267ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング