と言い出したが、それも連れずであった。旅の荷物は馬につけ、出入りの百姓兼吉に引かせ、新茶屋の村はずれから馬籠の地にも別れて、信濃《しなの》と美濃《みの》の国境《くにざかい》にあたる十曲峠《じっきょくとうげ》の雪道を下って来た。
中津川では、半蔵は東京の平田|鉄胤《かねたね》老先生や同門の医者金丸恭順などの話を持って、その町に住む二人《ふたり》の旧友を訪《たず》ねた。長く病床にある香蔵は惜しいことにもはや再び起《た》てそうもない。景蔵はずっと沈黙をまもる人であるが、しかしあって見ると、相変わらずの景蔵であった。
険しい前途の思いは半蔵の胸に満ちて来た。彼は宮村まで供をするという兼吉を見て、ともかくも馬で行かれるところまで行き、それから先は牛の背に荷物をつけ替えようと語り合った。というのは、岩石のそそり立つ山坂を平地と同じように踏めるのは、牛のような短く勁《つよ》い脚《あし》をもったものに限ると聞くからであった。雪をついて飛騨の山の方へ落ちて行く前に、半蔵は中津川旧本陣にあたる景蔵の家の部屋を借り、馬籠の伏見屋あてに次ぎのような意味の手紙を残した。
「小竹伊之助君――しばらくのお別れに
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