これを書く。自分はこの飛騨行きを天の命とも考えて、高地の方に住む人々に、満足するような道を伝えたいため、馬籠をあとにして中津川まで来た。飛騨の人々が首を長くして自分の往《い》くのを待ちわびているような気がしてならない。二年、三年の後、自分はむなしく帰るかもしれない。あるいは骨となって帰るかもしれないが、ただただ天の命を果たしうればそれでいいと思う。東京の旅以来、格別お世話になったことは、心から感謝する。ただお粂のことは、今後も何卒《なにとぞ》お力添えあるようお願いする。いよいよ娘の縁づいて行くまでに話が進んだら、そのおりは自分も一度帰村する心組みであるが、これが自分の残して行く唯一のお願いである。自分は今、すこぶる元気でいる。心も平素よりおちついているような気がする。君も御無事に。」
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     第十三章

       一

 四年あまり過ぎた。東京から東山道経由で木曾を西へ下って来て、馬籠《まごめ》の旅籠屋《はたごや》三浦屋の前で馬を停《と》めた英国人がある。夫人同伴で、食料から簡単な寝具食器の類《たぐい》まで携えて来ている。一人《ひとり》の通弁と、そこへ来て大きなトラ
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