り》の若者も喜び勇んで藪入《やぶいり》の日を送りに帰って来るだろうとのうわさで持ち切る騒ぎだ。
町へ来るにぎやかな三河万歳《みかわまんざい》までが、めでたい正月の気分を置いて行く中で、半蔵は謹慎の意を表しながらひとり部屋にすわりつづけた。お三輪は結いたてのうつくしい島田で彼のところへも挨拶《あいさつ》に来て、紅白の紙に載せた野村の村雨《むらさめ》を置いて行った。
七草過ぎになっても裁判所からは何の沙汰もない。毎日のように半蔵はそれを待ち暮らした。亭主多吉は風雅の嗜《たしな》みのある人だけに、所蔵の書画なぞを取り出して来ては、彼にも見よと言って置いて行ってくれる。腰張りのしてある黄ばんだ部屋の壁も半蔵には慰みの一つであった。
ふと、半蔵は町を呼んで来る物売りの声を聞きつけた。新版物の唄《うた》を売りに、深山の小鳥のような鋭くさびた声を出して、左衛門町の通りを読み読み歩いて来る。びっくりするほどよくとおるその読売りの声は町の空気に響き渡る。半蔵は聞くともなしにそれを聞いて、新しいものと旧《ふる》いものとが入れまじるまッ最中を行ったようなその新作の唄の文句に心を誘われた。
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