の構成を急ぐ混沌《こんとん》とした空気の中に立つものは、眼前に生まれ起こる数多くの現象を目撃しつつも、そうはっきりした説を立てうるものはなかった。というのは、いずれもその空気の中に動いていて、一切があまりに身に近いからであった。半蔵にしてからが、そうだ。ただ馬籠駅長として実際その道に当たって見た経験から、彼の争えないと想《おも》っていることは、一つある。交通の持ち来たす変革は水のように、あらゆる変革の中の最も弱く柔らかなもので、しかも最も根深く強いものと感ぜらるることだ。その力は貴賤《きせん》貧富を貫く。人間社会の盛衰を左右する。歴史を織り、地図をも変える。そこには勢い一切のものの交換ということが起こる。あの横浜開港の当時、彼は馬籠本陣の方にいて、幾多の小判《こばん》買いが木曾街道にまで入り込んだことを記憶する。国内に流通する小判、一|分《ぶ》判なぞがどんどん海の外へ流れ出して行き、そのかわりとして輸入せらるるものの多くは悪質な洋銀であった。古二朱金、保字《ほうじ》小判なぞの当時に残存した良質の古い金貨はあの時に地を払ってしまったことを覚えている。もしそれと同じようなことが東西文物の上
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