万福寺の墓地を思い出した。妻のお民や四人の子の留守居する家の囲炉裏ばたを思い出した。平田同門の先輩も多くある中で、彼にはことに親しみの深い暮田正香をめずらしく迎え入れたことのある家の店座敷を思い出した。木曾路通過の正香は賀茂の方へ赴任して行く旅の途中で、古い神社へとこころざす手本を彼に示したのもあの先輩だが、彼と共にくみかわした酒の上で平田一門の前途を語り、御一新の成就のおぼつかないことを語り、復古が復古であるというのはそれの達成せられないところにあると語り、しまいには熱い暗い涙があの先輩の男らしい顔を流れたことを思い出した。彼はまた、松尾|大宮司《だいぐうじ》として京都と東京の間をよく往復するという先輩|師岡正胤《もろおかまさたね》を美濃《みの》の中津川の方に迎えた時のことを思い出し、その小集の席上で同門の人たちが思い思いに歌を記《しる》しつけた扇を思い出し、あるものはこうして互いにつつがなくめぐりあって見ると八年は夢のような気がするとした意味の歌を書いたことを思い出し、あるものは辛《から》いとも甘いとも言って見ようのない無限の味わいをふくみ持った世のありさまではあるぞとした意味のも
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