年の旅の末にはこんな夢を見ることもあるものか。そう彼は考えて、まだ寝床からはい出すべき時でもない早暁の枕の上で残った夢のこころもちに浸っていた。いつでも寝返りの一つも打つと、からだを動かすたびにそんなこころもちの消えて行くのは彼の癖であったが、その明けがたにかぎって、何がなしに恐ろしかった夢の筋から、父母の面影までが、はっきりと彼の胸に残った。これまで彼が亡《な》き父を夢に見た覚えは、ただの一度しかない。青山の家に伝わる馬籠《まごめ》本陣、問屋《といや》、庄屋《しょうや》の三役がしきりに廃止になった後、父吉左衛門の百か日を迎えたころに見たのがその夢の記憶だ。その時にできた歌もまだ彼には忘れられずにある。
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亡《な》き人に言問《ことと》ひもしつ幽界《かくりよ》に通ふ夢路《ゆめじ》はうれしくもあるか
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 こんな自作の歌までも思い出しているうちに、耳に入る冷たい秋雨の音、それにまじってどこからともなく聞こえて来る蟋蟀《こおろぎ》の次第に弱って行くような鳴き声が、いつのまにか木曾の郷里の方へ彼の心を誘った。彼は枕の上で、恋しい親たちの葬ってある馬籠
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