を通う人力車の中にまで隠れている。こういうのが夢かしらん。そう思いながら、なおその心地をたどりつづけるうちに、大きな河《かわ》の流れているところへ出た。そこは郷里の木曾川《きそがわ》のようでもあれば、東京の隅田川《すみだがわ》のようでもある。水に棹《さお》さして流れを下って来る人がある。だんだんこちらの岸に近づいたのを見ると、その小舟をあやつるのは他の人でもない。それが彼の父吉左衛門だ。父はしきりに彼をさし招く。舟の中には手ぬぐいで髪をつつんだ一人《ひとり》のうしろ向きの婦人もある。彼は岸から父に声をかけて見ると、その婦人こそ彼を生んだ実の母お袖《そで》と聞かされて驚く。その時は彼も一生懸命に母を呼ぼうとしたが、あいにく声が咽喉《のど》のところへ干《ひ》からびついたようになって、どうしてもその「お母《っか》さん」が出て来ない。はるかに川上から橋の下の方へ渦巻《うずま》き流れて来る薄濁りのした水の勢いは矢のような早さで、見るまに舟も遠ざかって行く。思わず彼は自分で自分の揚げたうなり声にびっくりして、目をさました。


 こんなに父母が夢にはいったのは、半蔵としてはめずらしいことだった。半
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