はいっぱいに書物をねじ込みながら橋を渡って行く人は、一日の勤めを終わった役所帰りの半蔵である。
 その日かぎり、半蔵は再び役所の門を潜《くぐ》るまい、そこに集まる同僚の人たちをも見まいと思うほどのいらいらした心持ちで、鎌倉河岸《かまくらがし》のところに黄ばみ落ちている柳の葉を踏みながら、大股《おおまた》に歩いて行った。もともと今度の上京を思い立って国を出た時から、都会での流浪《るろう》生活を覚悟して来た彼である。半年の奉職はまことに短かったとは言え、とにもかくにも彼は神祇局の後身ともいうべき教部省に身を置いて見て、平田一派の諸先輩がそこに残した仕事のあとを見ただけにも満足しようとした。例の浅草|左衛門町《さえもんちょう》にある多吉の家をさして帰って行くと、上京以来のことが彼の胸に浮かんで来た。ふと、ある町の角《かど》で、彼は足をとめて、ホッと深いため息をついた。その路《みち》は半年ばかり彼が役所へ往復した路である。柄《がら》にもない教部省御雇いとしての位置なぞについたのは、そもそも自分のあやまりであったか、そんな考えがしきりに彼の胸を往《い》ったり来たりした。
「これはおれの来《く》べ
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