に彼の胸に浮かぶ。彼はあの水戸の苦しい党派争いがほとんど宗教戦争に似ていて、成敗利害の外にあったことを思い出した。あの水戸人の持つたくましい攻撃力は敵としてその前にあらわれたすべてのものに向けられ、井伊大老もしくは安藤老中《あんどうろうじゅう》のような要路の大官にまで向けられたことを思い出した。彼はそれを眼前に生起する幾多の現象に結びつけて見て、かつて水戸から起こったものが筑波《つくば》の旗上げとなり、尊攘《そんじょう》の意志の表示ともなって、活《い》きた歴史を流れたように、今またそれの形を変えたものが佐賀にも、土佐にも、薩摩《さつま》にも活き返りつつあるのかと疑った。
彼は自分で自分に尋ねて見た。
「これでも復古と言えるのか。」
その彼の眼前にひらけつつあったものは、帰り来る古代でもなくて、実に思いがけない近《ちか》つ代《よ》であった。
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第十一章
一
東京の町々はやがてその年の十月末を迎えた。常磐橋《ときわばし》内にある教部省では役所のひける時刻である。短い羽織に袴《はかま》をつけ、それに白足袋《しろたび》、雪駄《せった》ばきで、懐中に
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