東京まで半蔵が動いて見ると、昔|気質《かたぎ》の多吉の家ではまだ行燈《あんどん》だが、近所ではすでにランプを使っているところがある。夕方になると、その明るい光が町へもれる。あそこでも、ここでもというふうに。燈火《ともしび》すらこんなに変わりつつあった。
今さら、極東への道をあけるために進んで来た黒船の力が神戸《こうべ》大坂の開港開市を促した慶応三、四年度のことを引き合いに出すまでもなく、また、日本紀元二千五百余年来、未曾有《みぞう》の珍事であるとされたあの外国公使らが京都参内当時のことを引き合いに出すまでもなく、世界に向かってこの国を開いた影響はいよいよ日本人各自の生活にまであらわれて来るようになった。ことに、東京のようなところがそうだ。半蔵はそれを都会の人たちの風俗の好みにも、衣裳《いしょう》の色の移り変わりにもみて取ることができた。うす暗い行燈や蝋燭《ろうそく》をつけて夜を送る世界には、それによく映る衣裳の色もあるのに、その行燈や蝋燭にかわる明るいランプの時が来て見ると、今までうす暗いところで美しく見えたものも、もはや見られない。多吉の女房お隅はそういうことによく気のつく女
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