教育の方面に心を砕く人物を出したことも、彼には偶然とは思われない。今は文部教部両省合併で、不二麿も文部|大丞《だいじょう》の位置にあるから、この省務一切を管理する人に引き受けてもらったことは、半蔵としても心強い。もっとも、不二麿は民知の開発ということに重きを置き、欧米の教育事業を視察して帰ってからはアメリカ風の自由な教育法をこの国に採り入れようとしていて、すべてがまだ端緒についたばかりの試みの時代だとする考え方の人であったが。
多吉はまた半蔵を見に来て言った。
「どうです、青山さん。江戸のころから見ると、町の様子も変わりましたろう。去年の春から、敵打《かたきう》ちの厳禁――そうです、敵打ちの厳禁でさ。政府も大きな仕事をやったもんさね。親|兄弟《きょうだい》の讐《あだ》を勝手に復《かえ》すようなことは、講釈師の昔話になってしまいました。それだけでも世の中は変わって来ましたね。でも、江戸に長く住み慣れたものから見ると、徳川さまは実にかあいそうです。徳川さまの御恩を忘れちゃならない、皆それを言ってます。お隅のやつなぞもね、葵《あおい》の御紋を見ると涙がこぼれるなんて、そう言ってますよ。」
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