う人たちである。よくそれでも昔を忘れずに訪ねて来てくれたと夫婦は言って、早速荷物と共に両国の宿屋を引き揚げて来るよう勧めてくれたことは、何よりも彼をよろこばせた。
「お隅、青山さんは十年ぶりで出ていらしったとよ。」
そういう多吉も変われば、お隅も変わった。以前半蔵が木曾下四宿《きそしもししゅく》総代の庄屋として江戸の道中奉行から呼び出されたおり、五か月も共に暮らして見たのもこの夫婦だ。その江戸を去る時、紺木綿《こんもめん》の切れの編みまぜてある二足の草鞋《わらじ》をわざわざ餞別《せんべつ》として彼に贈ってくれたのもこの夫婦だ。
もとより今度の半蔵が上京はただの東京見物ではない。彼が田中不二麿を訪ねた用事というもほかではない。不二麿は尾州藩士の田中|寅三郎《とらさぶろう》と言ったころからの知り合いの間がらで、この人に彼は自己の志望を打ちあけ、その力添えを依頼した。旧領主|慶勝《よしかつ》公時代から半蔵父子とは縁故の深い尾州家と、名古屋藩の人々とは、なんと言っても彼にとって一番親しみが深いからであった。名古屋の藩黌《はんこう》明倫堂《めいりんどう》に学んだ人たちの中から、不二麿のような
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