さにはいって見る時が来た。」
こうカションが公使のそばへ行って語って見せるたびに、ロセスはそれをたしなめるような語気で、
「カション、いくら君が日本の言葉からはいろうとしても、その言葉の奥にあるものには手が届くまい。やはり、われわれヨーロッパのものは、なかなか東洋人の魂にははいれないのだ。」
それがロセスの言い草だった。
公使の一行が進んで行ったところは、広い淀川の流域から畿内《きない》中部地方の高地へと向かったところにあるが、あいにくと曇った日で、遠い山地の方を望むことはかなわなかった。二|艘《そう》の小蒸汽船は対岸に神社の杜《もり》や村落の見える淀川の中央からもっと先まで進んだ。そこまで行っても、遠い山々に隠れ潜んで容《かたち》をあらわさない。天気が天気なら、初めて接するそれらの山嶽《さんがく》から、一行のものは激しい好奇心を癒《いや》し得たかもしれない。でも、そちらの方には深い高地があって、その遠い連山の間に山城《やましろ》から丹波《たんば》にまたがるいくつかの高峰があるという日本人の説明を聞くだけにも満足するものが多かった。中でも、一番年若なカションは、一番熱心にその説明
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