間へも行って見た。あの黒船が東海道の浦賀に押し寄せてからこのかたの街道の混雑から言っても、あるいは任地に赴《おもむ》こうとし、あるいは帰国を急ごうとして、どれほどの時代の人がその客間に寝泊まりしたり、休息したりして行ったかしれない。今はそこもからッぽだ。白地に黒く雲形を織り出した高麗縁《こうらいべり》の畳の上までが湿《し》けて見える。
「お民、お前のところじゃ、上段の間を何に使ってるかい。」
「うちですか。うちじゃ神殿にして、産土神《うぶすな》さまを祭っていますよ。毎朝わたしは子供をつれて拝ませに行きますよ。」
「そういうところは、半蔵さんの家らしい。」
 兄妹《きょうだい》はこんな言葉をかわした。
「まあ、来てごらん。」
 という寿平次のあとについて、お民はさらに勝手口の木戸から庭の方へ出て見た。思い切った破壊がそこには行なわれている。妻籠本陣に付属する問屋場、会所から、多数《たくさん》な通行の客のために用意してあったような建物までがことごとく取り崩《くず》してある。母屋《もや》と土蔵と小屋とを除いた以外の建物はほとんど礎《いしずえ》ばかり残っていると言っていい。土蔵に続くあたりは桑
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