すると、降って来る小雪が彼の口の中へも舞い込んだ。年の暮れのことで、凍り道にも行き悩む。熊笹《くまざさ》を鳴らす勁《つよ》い風はつれなくとも、しかし彼は宿内の小前《こまえ》のものと共に、同じ仕事を分けることをむしろ楽しみに思った。また彼は勇気をふるい起こし、道を縦横に踏んで、峠の上で見つけて来た金剛杖《こんごうづえ》を力に谷深く進んで行った。ようやく妻籠手前の橋場というところまでたどり着いて、あの大橋を渡るころには、後方からやって来た尾州藩の一隊もやがて彼に追いついた。
五
明治二年の二月を迎えるころは、半蔵らはもはや革新潮流の渦《うず》の中にいた。その勢いは、一方に版籍奉還奏請の声となり、一方には神仏|混淆《こんこう》禁止の叫びにまで広がった。しかし、それがまだ実現の運びにも至らないうちに、交通の要路に当たるこの街道筋には早くもいろいろなことがあらわれて来た。
木曾福島の関所もすでに崩《くず》れて行った。暮れに、七、八十人の尾州藩の一隊が木曾福島をさしてこの馬籠峠の上を急いだは、実は同藩の槍士隊《そうしたい》で、尾州公が朝命を受け関所の引き渡しを山村氏に迫る意味
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