で、千里と共に本陣を出た。
どこの家でもまだ戸を閉《し》めて寝ている。半蔵は向かい側の年寄役梅屋五助方をたたき起こし、石垣《いしがき》一つ置いて向こうの上隣りに住む問屋九郎兵衛の家へも声をかけた。そのうちに年寄役伏見屋の伊之助も戸をあけてそこへ顔を出す。組頭《くみがしら》笹屋《ささや》庄助も下町の方から登って来る。脇本陣《わきほんじん》で年寄役を兼ねた桝田屋小左衛門《ますだやこざえもん》と、同役|蓬莱屋《ほうらいや》新助とは、伏見屋より一軒置いて上隣りの位置に対《むか》い合って住む。それらの人たちをも誘い合わせ、峠の上をさして、一同|朝靄《あさもや》の中を出かけた。
「戦争もどうありましょう。江戸から白河口《しらかわぐち》の方へ向かった東山道軍なぞは、どうしてなかなかの苦戦だそうですね。」
「越後口だって油断はならない。東方《ひがしがた》は飯山《いいやま》あたりまで勧誘に入り込んでるそうですぞ。」
「なにしろ大総督府で、東山道軍の総督を取り替えたところを見ると、この戦争は容易じゃない。」
だれが言い出すともなく、だれが答えるともない声は、見送りの人たちの間に起こった。
奥筋からの
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