の阿爺《おやじ》の言うように行きましょうかしら。」
「さあ、ねえ。」
「小野三郎兵衛さんも骨は折りましょうし、尾州藩でもこんな時ですから、百姓仲間の言うことを聞いてはくれましょう。ただ心配なのは、徒党の罪に問われそうな手合いです。それとも、会津戦争も始まってるような際だからと言って、こんな事件は秘密にしてしまいましょうか。」
「まあ、けが人は出したくないものだね。」
四
野外はすでに田植えを済まし、あらかた麦も刈り終わった時であった。半蔵が平兵衛を連れて帰って行く道のそばには、まだ麦をなぐる最中のところもある。日向《ひなた》に麦をかわかしたところもある。手回しよく大根なぞを蒔《ま》きつけるところもある。
大空には、淡い水蒸気の群れが浮かび流れて、遠く丘でも望むような夏の雲も起こっている。光と熱はあたりに満ちていた。過ぐる長雨から起き直った畠《はたけ》のものは、半蔵らの行く先に待っていて、美濃の盆地の豊饒《ほうじょう》を語らないものはない。今をさかりの芋《いも》の葉だ。茄子《なす》の花だ。胡瓜《きゅうり》の蔓《つる》だ。
ある板葺《いたぶ》きの小屋のそばを通り過ぎ
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