ています。そこへ小野三郎兵衛さんでも出て行って口をきかなかったら、勝重の言い草じゃありませんが、どういうことになったかわかりません。あの人も黙ってみてる場合じゃないと考えたんでしょうね。平田先生の御門人ならうそはつくまいということで、百姓仲間もあの人に一切を任せるということになりました。三郎兵衛さんが尾州表へ急行したと聞いて、それから百姓仲間も追い追いと引き取って行きました。まあ、大事に立ち至らないで、何よりでございましたよ。」
これを儀十郎は話し話し食った。そのいい年齢《とし》に似合わないほど早くも食った。
儀十郎はかなりトボけた人で、もしこれが厳罰主義をもって下に臨む旧政府の時代であったら、庄屋としての半蔵もおとがめはまぬかれまいなどと戯れて見せる。連帯の責任者として、縄《なわ》付きのまま引き立てられるところであったとも笑わせる。
こんな勝重の父親のこだわりのない調子が、やや半蔵を安心させた。やがて一同昼食をすましたころ、儀十郎はついと座を立って、別の部屋の方から一通の覚え書きを取り出して来た。小野三郎兵衛が百姓仲間に示したというものの写しである。尾州藩の方へ差し出す嘆願
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