。きっと、今ごろは田植えを済まして、こちらのうわさでもしていませず。」
こんな話をしながら、二人《ふたり》は道を進んだ。
時には、また街道へ雨が来る。青葉という青葉にはもうたくさんだと思われるような音がある。せっかくかわいた道路はまた見る間にぬれて行った。笠《かさ》を傾《かたぶ》けるもの、道づれを呼ぶもの、付近の休み茶屋へとかけ込むもの、途中で行きあう旅人の群れもいろいろだ。それは半蔵らが伊勢路や京都の方で悩んだような雨ではなくて、もはや街道へ来る夏らしい雨である。予定の日数より長くなった今度の旅といい、心にかかる郷里の方のうわさといい、二人ともに帰路を急いでいて、途中に休む気はなかった。たとい風雨の中たりともその日の午後のうちに三里半の峠を越して、泊まりと定めた大井の宿まではと願っていた。
日暮れ方に、半蔵らは大井の旅籠屋《はたごや》にたどり着いた。そこまで帰って来れば、尾張《おわり》の大領主が管轄の区域には属しながら、年貢米《ねんぐまい》だけを木曾福島の代官山村氏に納めているような、そういう特別な土地の関係は、中津川辺と同じ縄張《なわば》りの内にある。挨拶《あいさつ》に来る亭
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