る前日を期して、全国の人民に告げた新帝の言葉で、今日の急務、永世の基礎、この他にあるべからずと記《しる》し添えてあるものの写しだ。それは新帝が人民に誓われた五つの言葉より成る。万機公論に決せよ、上下心を一にせよ、官武一途はもとより庶民に至るまでおのおのその志を遂げよ、旧来の陋習《ろうしゅう》を破って天地の公道に基づけ、知識を世界に求め大いに皇基を振起せよ、とある。それこそ、万民のために書かれたものだ。
六
四月の中旬まで待つうちに、半蔵は江戸表からの飛脚|便《だよ》りを受け取って、いよいよ江戸城の明け渡しが事実となったことを知った。
さらに彼は月の末まで待った。昨日は将軍家が江戸|東叡山《とうえいざん》の寛永寺を出て二百人ばかりの従臣と共に水戸《みと》の方へ落ちて行かれたとか、今日は四千人からの江戸屋敷の脱走者が武器食糧を携えて両総方面にも野州《やしゅう》方面にも集合しつつあるとか、そんな飛報が伝わって来るたびに、彼の周囲にある宿役人から小前《こまえ》のものまで仕事もろくろく手につかない。箒星《ほうきぼし》一つ空にあらわれても、すぐそれを何かの前兆に結びつけるよう
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