。とうとう、その日がやって来たのだ。しかも、御親政の初めにあたり、この多難な時に際会して。
明日《あす》――最も古くて、しかも最も新しい太陽は、その明日にどんな新しい古《いにしえ》を用意して、この国のものを待っていてくれるだろうとは、到底彼などが想像も及ばないことであった。そういう彼とても、平田門人の末に列《つら》なり、物学びするともがらの一人《ひとり》として、もっともっと学びたいと思う心はありながら、日ごろ思うことの万が一を果たしうるような静かな心の持てる時代でもなかった。信を第一とす、との心から、ただただ彼は人間を頼みにして、同門のものと手を引き合い、どうかして新政府を護《も》り立て、後進のためにここまで道をあけてくれた本居宣長《もとおりのりなが》らの足跡をその明日にもたどりたいと願った。
五
三月下旬には、東山道軍が木曾街道の終点ともいうべき板橋に達したとの報知《しらせ》の伝わるばかりでなく、江戸総攻撃の中止せられたことまで馬籠の宿場に伝わって来るようになった。すでに大政を奉還し、将軍職を辞し、広大な領地までそこへ投げ出してかかった徳川慶喜が江戸城に未練のあ
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