きました。あの仲間のことだ、それくらいのことはやりかねないね。そういうさかんな連中がわれわれの地方へ回って来たわけさ。川育ちは川で果てるとも言うじゃありませんか。今度はあの仲間が自分に復讐《ふくしゅう》を受けるようなことになりましたね。そりゃ不純なものもまじっていましたろう。しかし、ただ地方を攪乱《こうらん》するために、乱暴|狼藉《ろうぜき》を働いたと見られては、あの仲間も浮かばれますまい。」
こんな話が始まっているところへ、お民は夫の友人をねぎらい顔に、一本|銚子《ちょうし》なぞをつけてそこへ持ち運んで来た。
「香蔵さん、なんにもありませんよ。」
「まあ、君、膝《ひざ》でもくずすさ。」
夫婦してのもてなしに、香蔵も無礼講とやる。酒のさかなには山家の蕗《ふき》、それに到来物の蛤《はまぐり》の時雨煮《しぐれに》ぐらいであるが、そんなものでも簡素で清潔なのしめ膳《ぜん》の上を楽しくした。
「お民、香蔵さんは中津川へお帰りになるばかりじゃないよ。これからまた京都の方へお出かけになる人だよ。」
「それはおたいていじゃありません。」
この夫婦のかわす言葉を香蔵は引き取って言った。
「ええ、
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