はたまげました。外国交際の話が出ると、すぐ万国公法だ。あれにはわたしも当てられて来ましたよ。あれだけは味噌《みそ》ですね。」
これは、縫助が半蔵のところに残して行った言葉だ。
伊那の谷をさして、広瀬村泊まりで立って行った客を送り出した後、半蔵はひとり言って見た。
「百姓にだって、ああいう頼もしい人もある。」
四
一行十三人、そのいずれもが美濃の平田門人であるが、信州|下諏訪《しもすわ》まで東山道総督を案内して、そこから引き返して来たのは、三日ほど後のことである。一行は馬籠宿昼食の予定で、いずれも半蔵の家へ来て草鞋《わらじ》の紐《ひも》を解いた。
本陣の玄関先にある式台のところは、これらの割羽織に帯刀というものものしい服装《いでたち》の人たちで混雑した。陣笠《じんがさ》を脱ぎ、立附《たっつけ》の紐をほどいて、道中のほこりをはたくものがある。足を洗って奥へ通るものがある。
「さあ、どうぞ。」
まッ先に玄関先へ飛んで出て、客を案内するのは清助だ。奥の間と中の間をへだてる襖《ふすま》を取りはずし、二|部屋《へや》通しの広々としたところに客の席をつくるなぞ、清助もぬか
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