の来ることを想像した。彼はその想像を古代の方へも馳《は》せ、遠く神武《じんむ》の帝《みかど》の東征にまで持って行って見た。
まだ夜の明けきらないうちから半蔵は本陣の母屋《もや》を出て、薄暗い庭づたいに裏の井戸の方へ行った。水垢離《みずごり》を執り、からだを浄《きよ》め終わって、また母屋へ引き返そうとするころに、あちこちに起こる鶏の声を聞いた。
いよいよ東征軍を迎える最初の日が来た。青く暗い朝の空は次第に底明るく光って来たが、まだ街道の活動ははじまらない。そのうちに、一番早く来て本陣の門をたたいたのは組頭の庄助だ。
「半蔵さま、お早いなし。」
と庄助は言って、その日から向こう三日間、切畑《きりばた》、野火、鉄砲の禁止のお触れの出ていることを近在の百姓たちに告げるため、青の原から杁《いり》の方まで回りに行くところだという。この庄助がその日の村方の準備についていろいろと打ち合わせをした後、半蔵のそばから離れて行ったころには、日ごろ本陣へ出入りの百姓や手伝いの婆《ばあ》さんたちなどが集まって来た。そこの土竈《どがま》の前には古い大釜《おおがま》を取り出すものがある。ここの勝手口の外に
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