力がある。それに、血を分けたものの親しみまでが、なんとなく温《あたた》かに伝わって来る。
「どれ、わたしにも踏ませて。」
 とお粂も言って、姉と弟とはかわるがわる半蔵の大きな足の裏を踏んだ。

       四

「あなた。」
「おれを呼んだのは、お前かい。」
「あなたはどうなさるだろうッて、お母《っか》さんが心配していますよ。」
「どうしてさ。」
「だって、あなたのお友だちは岩倉様のお供をするそうじゃありませんか。」
 半蔵夫婦はこんな言葉をかわした。
 暖かい雨はすでに幾たびか馬籠峠《まごめとうげ》の上へもやって来た。どうかすると夜中に大雨が来て、谷々の雪はあらかた溶けて行った。わずかに美濃境《みのざかい》の恵那山《えなさん》の方に、その高い山間《やまあい》の谿谷《けいこく》に残った雪が矢の根の形に白く望まれるころである。そのころになると東山道軍の本営は美濃まで動いて来て、大垣《おおがき》を御本陣にあて、沿道諸藩との交渉を進めているやに聞こえて来た。兵馬の充実、資金の調達などのためから言っても、軍の本営ではいくらかの日数をそこに費やす必要があったのだ。勤王の味方に立とうとする地方の
前へ 次へ
全419ページ中166ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング