半蔵、福島の方はどうだったい。」
 と吉左衛門が言いかけると、おまんも付け添えるように、
「おとといはお前、中津川の景蔵さんまでお呼び出しで、ちょっと吾家《うち》へも寄って行ってくれたよ。」
「そうでしたか。景蔵さんには寝覚《ねざめ》で行きあいましたっけ。まあ、お役所の方も、お叱《しか》りということで済みました。つまらない疑いをかけられたようなものですけれど、今度のお呼び出しのことは、お父《とっ》さんにもおわかりでしょう。」
「いや、わかるどころか、あんまりわかり過ぎて、おれは心配してやったよ。お前の帰りもおそいものだからね。」
 こんな話がはじまっているところへ、母屋《もや》の方にいた清助も裏二階の梯子段《はしごだん》を上って来た。無事に帰宅した半蔵を見て、清助も「まあ、よかった」という顔つきだ。
「半蔵、お前の留守に、追分《おいわけ》の名主《なぬし》のことが評判になって、これがまた心配の種さ。」と吉左衛門が言って見せた。
「それがです。」と清助もその話を引き取って、「あの名主は親子とも入牢《にゅうろう》を仰せ付けられたとか、いずれ追放か島流しになるとか、いろいろなことを言いましょう
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