の平兵衛と共に馬籠の宿はずれまで帰って行ったころは、日暮れに近かった。そこまで行くと、下男の佐吉が宗太(半蔵の長男)を連れて、主人の帰りのおそいのを案じ顔に、陣場というところに彼を待ち受けていた。その辺には「せいた」というものを用いて、重い物を背負い慣れた勁《つよ》い肩と、山の中で働き慣れた勇健な腰骨とで、奥山の方から伐《き》り出して来た松明を定められた場所へと運ぶ村の人たちもある。半蔵と見ると、いずれも頬《ほお》かぶりした手ぬぐいをとって、挨拶《あいさつ》して行く。
「みんな、御苦労だのい。」
そう言って村の人たちに声をかける時の半蔵の調子は、父|吉左衛門《きちざえもん》にそっくりであった。
半蔵は福島出張中のことを父に告げるため、馬籠本陣の裏二階にある梯子段《はしごだん》を上った。彼も妻子のところへ帰って来て、母屋《もや》の囲炉裏ばたの方で家のものと一緒に夕飯を済まし、食後に父をその隠居所に見に行った。
「ただいま。」
この半蔵の「ただいま」が、炬燵《こたつ》によりかかりながら彼を待ち受けていた吉左衛門をも、茶道具なぞをそこへ取り出す継母のおまんをもまずよろこばせた。
「
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