小路《あやのこうじ》二卿の家来という資格で、美濃の中津川、落合《おちあい》の両宿から信濃境《しなのざかい》の十曲峠《じっきょくとうげ》にかかり、あれから木曾路にはいって、馬籠峠の上をも通り過ぎて行った。あるところでは、藩の用人や奉行《ぶぎょう》などの出迎いを受け、あるところでは、本陣や問屋などの出迎いを受けて。
「もう、先駆がやって来るようになった。」
この街道筋に総督を待ち受けるほどのもので、それを思わないものはない。一行の大砲や武装したいでたちを見るものは来たるべき東山道軍のさかんな軍容を想像し、その租税半減の旗を望むものは信じがたいほどの一大改革であるとさえ考えた。やがて一行は木曾福島の関所を通り過ぎて下諏訪《しもすわ》に到着し、そのうちの一部隊は和田峠を越え、千曲川《ちくまがわ》を渡って、追分《おいわけ》の宿にまで達した。
なんらの抵抗を受けることもなしに、この一行が近江《おうみ》と美濃と信濃の間の要所要所を通り過ぎたことは、それだけでも東山道軍のためによい瀬踏みであったと言わねばならぬ。なぜかなら、西は大津から東は追分までの街道筋に当たる諸藩の領地を見渡しただけでも、どこ
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