』という言葉がある……そうさ、魂の柱さ。そいつを皆が失っているからじゃないかね……今の時代が求めるものは、君、再び生きるということじゃなかろうか……」
 しばらく二人《ふたり》は黙って寺町の通りを歩いて行った。そのうちに、縫助は何か言い出そうとして、すこし躊躇《ちゅうちょ》して、また始めた。
「暮田さん、ここまで送って来ていただけばたくさんです。あすの朝はわたしも早く立ちます。大津経由で、木曾《きそ》街道の方に向かいます。ここでお別れとしましょう。」
「まあもうすこし一緒に行こう。」
「どうでしょう、暮田さん、沢家のお邸《やしき》の方へは何か報告が来るんでしょうか。東山道回りの鎮撫《ちんぶ》総督も行き悩んでいるようですね。」
「どうも、そうらしい。」
「あれで美濃にはいろいろな藩がありますからね。中には、佐幕でがんばってるところもありますからね。」
「これから君の足で木曾街道を下って行ったら、大垣《おおがき》あたりで総督の一行に追いつきゃしないか。」
「さあ」
「中津川の浅見君にはよろしく言ってくれたまえ。それから、君が馬籠峠《まごめとうげ》を通ったら、あそこの青山半蔵の家へも声をかけ
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