行の道筋を厳重に取り締まらせ、旅館の近傍へは屯兵所《とんぺいじょ》を設けて昼夜怠りなき回り番の手配りまでしたほどであったのに、新政府が万国交際の趣意もよく攘夷家に徹しなかったのであろう。それ乱暴者だと言って、一行護衛の先頭にあった兵隊が発砲する、群集は驚いて散乱する、その間に壮漢らの撃ち合いが行なわれた。中井弘蔵と後藤象次郎とは公使の接待役として、その時も行列の中にあったが、後藤は赤備兵の中へしゃにむに斬《き》り込んで来たもののあるのを見て、刀を抜いて一名を斃《たお》した。二度目に後藤の刀の目釘《めくぎ》が抜けて、その刀が飛んだ。そこで中井が受けた。中井は受けそこねて、頭部を斬られながらその場に倒れた。一名が兵隊のため生捕《いけど》りにされて、この騒ぎはようやくしずまったが、赤備兵の中には八、九人の手負いを出した。騎馬で行列の中にあったパアクスその人は運強くも傷つけられなかったとはいえ、参内はこの変事のために見合わせになった。さてこそ英国公使の通行を見なかったのである。一方には、紫宸殿《ししんでん》での御対面の式がパアクス以外の二国公使に対して行なわれた。新帝は御袴《おんはかま》に白の
前へ 次へ
全419ページ中113ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング