い思いと一緒になって、二人《ふたり》の胸に入れまじった。
やがて、加州の紋じるしらしい梅鉢《うめばち》の旗を先に立てて、剣付き鉄砲を肩にした兵隊の一組が三条の方角から堺町通りを動いて来た。公使一行を護衛して来た人たちだ。そのうちにオランダ代理公使ブロックと、その書記官クラインケエスとを乗せた駕籠《かご》は、正香や縫助の待ち受けている前へさしかかった。
遠い世界の人のようにのみ思われていたものは、今二人の平田門人のすぐ目の前にある。正香らはつとめて西洋人の風貌《ふうぼう》を熟視しようとしたが、それは容易なことではなかった。というのは、先方が駕籠の中の人であり、時は短かく、かつ動いているため、思うように公使らを見る余裕もないからであった。のみならず、筒袖《つつそで》、だんぶくろ、それに帯刀の扮装《いでたち》で、周囲を警《いまし》め顔《がお》な官吏が駕籠のそばに付き添うているからで。
しかし、公使らを乗せた駕籠の窓には簾《すだれ》が巻き揚げてある。時には捧の前後に取りつく四人の駕籠かきが肩がわりをするので、正香らは黒羅紗《くろらしゃ》の日覆《ひおお》いの下にくっきりと浮き出している
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