ういうおばあさんの声を聞いたのは、やがてお民が妻籠を辞し去ろうとする四日目の朝である。たとい今度の里帰りには、娘お粂のことについてわざわざ来たほどのよい知恵も得られず、相談らしい相談もまとまらずじまいではあっても、無事でいるおばあさんたちの顔を見て慰められたり励まされたりしたというだけにも彼女は満足しようとした。
そこへお里も来て、
「お民さん、まだお粂の御祝言《ごしゅうげん》までには間もあることですから、気に入った着物でも造ってくれて、様子をごらんなさるさ。」
「そうだとも。」とおばあさんも言う。
「そのうちにはお粂の気も変わりますよ。」とまたお里がなんとなく夫寿平次に似て来たような冷静なところを見せて言った。「いくら読み書きの好きな娘だって、十八やそこいらで、そうはっきりした考えのあるもんじゃありませんよ。」
「お里の言うとおりさ。好きな小袖《こそで》でも造ってくれてごらん。それが何よりだよ。わたしたちの娘の時分には、お前、自分の箪笥《たんす》ができるのを何よりの楽しみにして、みんな他《よそ》へ嫁《かたづ》いたくらいだからねえ。」
とおばあさんも言葉を添えた。子から孫の代を見て、曾孫《ひいまご》まであるこのおばあさんは、深窓に人となった自分の娘時分のことをそこへ持ち出して見せた。ことに、その「箪笥」には力を入れて。
こんなことで、お民はそこそこに戻《もど》りのしたくした。馬籠の方に彼女を待つ夫ばかりでなく、娘のことも心にかかって、そう長くは生家《さと》に逗留《とうりゅう》しなかった。うこぎの芽にはやや早く、竹の子にもまだ早くて、今は山家も餅草《もちぐさ》の季節であるが、おばあさんはたまの里帰りの孫娘のために、あれも食わせてやりたい、これも食わせてやりたいと言う。その言葉だけでお民にはたくさんだった。来た時と同じように、彼女は鈴の鳴る巾着《きんちゃく》を和助の腰にさげさせ、それから下女のお徳の背におぶわせた。
「あれ、お民、もうお帰りかい。それでも、あっけない。和助もまたおいでや。この次ぎに来る時は大きくなっておいでや。まだまだおばあさんも達者《たっしゃ》で待っていますよ。」
このおばあさんにも、お民は別れを告げて出た。
街道には、伊勢参宮《いせさんぐう》の講中《こうじゅう》なぞが群がり集まるころである。木曾路ももはや全く以前のような木曾路ではない。お民
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