は、記念の食事に招かれて来た村の人たちが並んで膳についている。寿平次はそれを見渡しながら、箸《はし》休めの茄子《なす》の芥子《からし》あえも精進料理らしいのをセカセカと食った。猪口《ちょく》の白《しら》あえ、椀《わん》の豆腐のあんかけ、皿《さら》の玉子焼き、いずれも吉左衛門の時代から家に残った器《うつわ》に盛られたのが、勝手の方から順にそこへ運ばれて来た。小芋《こいも》、椎茸《しいたけ》、蓮《はす》の根などのうま煮の付け合わせも客の膳に上った。
 あちこちと半蔵が盃を受けて回るうちに、ふと屋外にふりそそぐ雨の音が耳についた。秋の立つというころの通り雨が庭へ来る音だ。やがてその音の降りやむころには、彼は大工の前へも盃を受けに行き、髪結いの直次の前へも受けに行った。
「おれにも盃をくれるかなし。」
 と子息《むすこ》の代理に来たお虎《とら》婆さんがそこへすわり直して言った。先祖の代から本陣に出入りする百姓の家のものだ。
「半蔵さま、お前さまの前ですが、大旦那はこういうお客をするのが好きな人で、村のものを集めてはよくお酒盛りよなし。ほんとに、大旦那は気の大きな人だった。」
 とお虎が言う。そこには兼吉も桑作も膝《ひざ》をかき合わせている。半蔵は婆さんから受けた盃を飲みほして、それを兼吉にさし、さらに桑作にもさした。
「そりゃ、お前、一度でも吾家《うち》の敷居をまたいだものへは、何か一品ずつ形見が残して置いてあったよ。そういうものがちゃんと用意してあったよ。」と半蔵が言って見せる。
「大旦那はそういう人よなし。」
 とお虎婆さんも上きげんで、わざわざその日のために黒々と染めて来たらしい鉄漿《かね》をつけた歯を見せて笑った。この酒好きな婆さんは膳の上に盃を置いた手で、自分の顔をなで回しながら、大旦那の時分の忘れられないことを繰り返した。
 次第に半蔵が重ねた盃の酒は顔にも手にも発して来た。その晩は彼もめずらしく酔った。客一同へ蕎麦が出て、ぽつぽつ席を立ちかけるものもあるころには、物を見る彼の目も朦朧《もうろう》としていた。しまいには奥の間の廊下の外にすべり出し、そこに酔いつぶれていて、勝重の介抱に来てくれたのをわずかに覚えているほど酔った。
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     第七章

       一

 例の万国公法の意気で、新時代を迎えるに急な新政府がこれまでの旧《ふる》い暦をも廃
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