たばかりの姉弟《きょうだい》が三人づれで寺の廊下を回って来た。中でも、妻籠から来た正己はじっとしていない。これが馬籠のお寺かという顔つきで、久しぶりに一緒になったお粂や宗太を案内に、太鼓のぶらさがった本堂の方へ行き、位牌堂《いはいどう》の方へ行き、故人|蘭渓《らんけい》の描いた本堂のそばの画襖《えぶすま》の方へも行った。松雲和尚の丹精《たんせい》からできた築山風《つきやまふう》の庭の見える回廊の方へも行った。この活発な弟を連れて何度も同じ板の間を踏んで来る姉娘の白足袋《しろたび》も清げに愛らしかった。
儀式の始まる時も近づいた。年老いた金兵衛は寺の方で棺の到着を待ち受けていた一人であるが、その時、伊之助と一緒に方丈を出て、勝重の前を会釈して通った。この隠居は平素よりも一層若々しく見えるくらいの結い立ての髪、剃《そ》り立ての顔で、伊之助に助けられながら本堂への廊下を通り過ぎた。一歩一歩ずつ小刻みに刻んで行くその足もとには無量の思いを託して。
「喝《かつ》。」
式場での弔語の終わりにのぞんで、松雲和尚はからだのどこから出したかと思われるような、だれもがびっくりするような鋭い声を出した。この世を辞し去る旅人の遺骸を前にして、和尚がおくる餞別《せんべつ》は、長い修業とくふうとから来たような禅僧らしいその一語に尽きていた。
式も済み、一同の焼香も済んで、半蔵はその日の会葬者へ礼を述べ、墓地まで行こうという人たちと一緒に本堂を出た。寺の境内にある銀杏《いちょう》の樹《き》のそばの鐘つき堂のあたりで彼は近在帰りの会葬者に別れ、経王石書塔《きょうおうせきしょとう》の文字の刻してある石碑の前では金兵衛にも別れた。山門の外の石段の降り口は小高い石垣《いしがき》の斜面に添うて数体の観音《かんのん》の石像の並んでいるところである。その辺でも彼は荒町や峠をさして帰って行く村の人々に別れた。
小山の傾斜に添うた墓地の方では、すでに埋葬のしたくもできていた。半蔵らはその入り口のところで、迎えに来る下男の佐吉にもあった。用意した場所の深さは何尺、横幅何尺、それだけの深さと横幅とがあれば大旦那《おおだんな》の寝棺を納めるに充分であろうなぞと佐吉は語る。やがて生々《なまなま》しい土のにおいが半蔵らの鼻をついた。そこは青山の先祖をはじめ、十七代も連なり続いた古い家族の眠っているところだ、掘り
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