続いて行く山家の寒さ、石を載せた板屋根でも吹きめくる風と雪――人を眠らせにやって来るようなそれらの冬の感じが、破って出たくも容易に出られない一切の現状のやるせなさにまじって、彼の胸におおいかぶさって来ていた。
 しかし、歩けば歩くほど、彼は気の晴れる子供のようになって、さらに西の宿はずれの新茶屋の方へと街道の土を踏んで行った。そこには天保十四年のころに、あの金兵衛が亡父の供養にと言って、木曾路を通る旅人のために街道に近い位置を選んで建てた芭蕉《ばしょう》の句碑もある。とうとう、彼は信濃《しなの》と美濃の国境《くにざかい》にあたる一里塚《いちりづか》まで、そこにこんもりとした常磐木《ときわぎ》らしい全景を見せている静かな榎《え》の木の下まで歩いた。
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     第九章

       一

 江戸の町々では元治《げんじ》元年の六月を迎えた。木曾街道《きそかいどう》方面よりの入り口とも言うべき板橋から、巣鴨《すがも》の立場《たてば》、本郷《ほんごう》森川宿なぞを通り過ぎて、両国《りょうごく》の旅籠屋《はたごや》十一屋に旅の草鞋《わらじ》をぬいだ三人の木曾の庄屋《しょうや》がある
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