飛んで来て弟に戯れた。
「宗太、お前は兄さんのくせに、そんなことを言うんじゃないよ。」とお民はたしなめるように言って見せた。「妻籠はお前お母《っか》さんの生まれたお家じゃありませんか。」
 半蔵夫婦の見ている前では、兄弟《きょうだい》の子供の取っ組み合いが始まった。兄の前髪を弟がつかんだ。正己はようやく人の言葉を覚える年ごろであるが、なかなかの利《き》かない気で、ちょっとした子供らしい戯れにも兄には負けていなかった。
「今夜は、妻籠の兄さんのお相伴《しょうばん》に、正己にも新蕎麦《しんそば》のごちそうをしてやりましょう。それに、お母《っか》さんの言うには、何かこの子につけてあげなけりゃなりますまいッて。」
「妻籠の方への御祝儀《ごしゅうぎ》にかい。扇子《せんす》に鰹節《かつおぶし》ぐらいでよかないか。」
 夫婦はこんな言葉をかわしながら、無心に笑い騒ぐ子供らをながめた。お民は妻籠からの話を拒もうとはしなかったが、さすがに幼いものを手放しかねるという様子をしていた。
「お師匠さま、来てください。」
 表玄関の方で、けたたましい呼び声が起こった。勝重《かつしげ》は顔色を変えて、表玄関から店
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