ついて語り合いたい心があり、馬籠ばかりでなく妻籠の方の人馬継立ての様子をも尋ねたい心があった。寿平次は寿平次で、この公役の見送りを機会に、かねて半蔵まで申し込んであった妹お民が三番目の男の子を妻籠の方へ連れて行って育てたいという腹で来た。いまだに子供を持たない寿平次が妻籠本陣での家庭をさみしがって、その話をかねて今度やって来たとは、半蔵は義理ある兄の顔を一目見たばかりの時にすでにそれと察していた。
「まあ、得右衛門さん、お上がりください。」
お民は本陣の奥から上がり端《はな》のところへ飛んで出て来た。兄を見るばかりでなく、妻籠なじみの得右衛門を家に迎えることは、彼女としてもめずらしかった。
「はてな。阿爺《おやじ》も久しぶりでお目にかかりたいでしょうから、隠居所の方へ来ていただきましょうか。」
そう半蔵は言って、その足で裏二階の方へ妻籠の客を案内した。
間もなく吉左衛門の隠居|部屋《べや》では、「皆さん、袴《はかま》でもお取り。」という老夫婦の声を聞いた。
「お父《とっ》さん、いかがですか、その後御健康は。」と寿平次が尋ねる。
「いや、ありがとう。自分でも不思議なくらいにね、
前へ
次へ
全434ページ中76ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング