るまでには、どのくらいの人が陰で働いたか知れますまい。」
「そりゃ、二人や三人の力でこの復古ができたと思うものがあったら、それこそとんでもない見当違いでしょう。」
「して見るとあの本居先生なぞが『古事記伝』を書いた本志は、こうまで道をあけるためであったかと思いますね。」
やがて、亭主が炉にかけた鍋《なべ》からは、うまそうに煮える串魚のにおいもして来た。半蔵らが温《あたた》めてもらった酒もそこへ来た。時刻にはまだすこし早いころから、新茶屋の炉ばたではなめ味噌《みそ》ぐらいを酒のさかなに、盃《さかずき》のやり取りが始まった。
「旦那《だんな》、」と亭主はそこへ顔を出して、「この辺をよく通る旅の商人《あきうど》が塩烏賊《しおいか》をかついで来て、吾家《うち》へもすこし置いて行った。あれはどうだなし。」
「や、そいつはありがたいぞ。」と半蔵は好物の名を聞きつけたように。
「塩烏賊のおろしあえと来ては、こたえられない。酒の肴《さかな》に何よりだ。」と香蔵も調子を合わせる。
「今に豆腐の汁《つゆ》もできます。ゆっくり召し上がってください。」とまた亭主が言う。
「勝重さん、一|盃《ぱい》行こう。」
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