百枚ほどの栗板《くりいた》が問屋場《といやば》のあたりに運ばれるころは、妻籠《つまご》本陣の寿平次もちょっと日帰りで半蔵親子のところへ大風の見舞いに来た。
 そろそろ半蔵は村民のために飯米の不足を心配しなければならなかったのである。そこで、寿平次をつかまえて尋ねた。
「寿平次さん、君の村にはどうでしょう、米の余裕はありますまいか。」
 この注文の無理なことは半蔵も承知していた。樅《もみ》、栂《つが》、椹《さわら》、欅《けやき》、栗《くり》、それから檜木《ひのき》なぞの森林の内懐《うちぶところ》に抱かれているような妻籠の方に、米の供給は望めない。妻籠から東となると、耕地はなおさら少ない。西南の日あたりを受けた傾斜の多い馬籠の地勢には竹林を見るが、木曾谷《きそだに》の奥にはその竹すら生長しないところさえもある。
 その時は半蔵以外の宿役人も、いずれもじっとしていなかった。問屋九郎兵衛をはじめ、年寄役の桝田屋小左衛門《ますだやこざえもん》、同役|蓬莱屋《ほうらいや》新七の忰《せがれ》新助、同じく梅屋五助なぞは、組頭《くみがしら》の笹屋庄助《ささやしょうすけ》と共に思い思いに奔走していた。ちょ
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